極値偶ユニモジュラー格子とは
格子と Gram 行列
の一次独立な 本のベクトル を整数係数で足し合わせて得られる点全体を、格子(lattice)と呼びます。
いちばん簡単な例は、座標がすべて整数の点からなる です。通常の内積を と書き、長さの 乗 を のノルムと呼びます。
格子は、回転と鏡映の違いを除けば、基底ベクトルどうしの内積で決まります。これを並べた行列
を Gram 行列と呼びます。 のベクトルを と書くと、そのノルムは として で計算できます。
格子の基底は一通りではありません。基底を取り替えると は ( は行列式が の整数行列)に変わるので、行列式 は基底の取り方によりません。これを格子の行列式と呼び、 と書きます。その平方根は、基底ベクトルが張る平行体 の体積に等しくなります。この平行体を基本領域と呼びます。基本領域を格子のすべてのベクトルで平行移動すると、 が重なりなく覆われます。
このウェブサイトで扱う格子はすべて、成分が整数の Gram 行列で与えます(ここで扱う格子は内積がすべて整数になるものだからです。詳しくは次の節で述べます)。図に示したのは、 にある という格子の Gram 行列です。 は、次の節で定義する偶ユニモジュラー格子のうち次元が最も小さいもので、このウェブサイトの全体を通して何度も登場します。
正の成分は赤、負の成分は青、 は灰色で示しています。対角成分はすべて で、 です。
偶ユニモジュラー格子
ベクトルどうしの内積 がすべて整数である格子、つまり Gram 行列の成分がすべて整数である格子を、整格子(integral lattice)と呼びます。整格子の中でも、次の性質を持つものには特に名前が付いています。
- 偶格子(even lattice): すべてのノルム が偶数である整格子です。これは、 の対角成分がすべて偶数であることと同じです。
- ユニモジュラー格子(unimodular lattice): である整格子です。これは、格子がその双対格子 と一致することと同じです。
偶ユニモジュラー格子は、次元 が の倍数のときにしか存在しません [Ser73, Ch. V](理由はすぐ次の節で説明します)。 はユニモジュラーですが、基底ベクトルのノルムが なので偶格子ではありません。一方、上の図の の Gram 行列は、対角成分がすべて で行列式が なので、 は偶ユニモジュラー格子です。
回転と鏡映で互いに移り合う格子を同一視すると、偶ユニモジュラー格子はどの次元でも有限個しかありません。 次元にあるのは だけです。 次元には、 と、 と呼ばれる格子の 個があります。ここで は直交和を表し、 つの が の互いに直交する 次元の部分空間に置かれています。
次元には 個あり、これらを分類した数学者の名をとって Niemeier 格子と呼ばれています [Nie73]。 次元には、ノルム のベクトルを持たないものに限っても 万個以上あることが分かっていますが [Kin03, Cor. 5]、正確な個数はまだ知られていません。このような下界をどう得るのかは、質量公式の頁で説明します。
個の Niemeier 格子のうち、ノルム のベクトルを持たないものは つしかありません。これが Leech 格子 で、1967 年に Leech が論文で発表しました [Lee67]。また、ノルム のベクトルを持たない 次元の偶ユニモジュラー格子が Leech 格子に限られることを、Conway が証明しています [Con69]。 の でないベクトルのノルムはすべて 以上で、ノルム のベクトルは 本あります。図は の Gram 行列の一つです。
拡張 Golay 符号を用いた構成による Gram 行列です [SPLAG, Ch. 4]。対角成分はすべて で、 です。
テータ級数
格子 に対して、関数
を のテータ級数と呼びます。ノルムの等しいベクトルをまとめると、ノルム のベクトルの本数を として と書けます。偶格子ではノルムが偶数のものしか現れないので、 とおくと、テータ級数はベクトルの本数を係数とする のべき級数になります。
たとえば、 と Leech 格子のテータ級数は次のように始まります。
格子 と の直交和 のテータ級数は、 と のテータ級数の積になります。 のベクトルは と の組 で、そのノルムは だからです。つまり、次のようになります。
偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、 つの変換公式に従います。まず、 が偶数なので、どの についても です。したがって
が成り立ちます。次に、Poisson の和公式から、どの格子についても
が得られます [Ser73, Ch. VII, §6]。右辺には双対格子が現れます。ユニモジュラー格子では 、 なので、両辺に同じ関数が現れます。
ユニモジュラー性を考えるのはこのためです。ユニモジュラー格子のテータ級数は、具体的な因子を除いて自分自身に移ります。
実は、この つの変換公式だけで、 は の倍数でなければならないことが分かります。 つを組み合わせると、写像 はテータ級数に次のように作用します。
を 回続けると、どの点も元に戻ります。つまり です。したがって
となります。 は恒等的に ではなく、因子は について連続なので、 つの因子の積はすべての で です。ここで とおくと、 であり、 なので、 つの因子はどれも に等しくなります。よって 、つまり は の倍数です。
が の倍数なら、因子 は単に になります。上半平面 上の正則関数で、 で変わらず、 で 倍になり、 で有界なものを、重さ のモジュラー形式と呼びます。したがって、 次元の偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、重さ のモジュラー形式です [Ser73, Ch. VII, §6]。これが重要なのは、重さを固定すると、その重さのモジュラー形式全体が次元の小さいベクトル空間をなすからです。次の節で見るように、そのために本数 の自由度はほとんど残りません。
最小ノルムの上界
格子 の でないベクトルのノルムのうち最も小さい値を、 の最小ノルムと呼び、 と書きます。偶格子の最小ノルムは偶数です。では、偶ユニモジュラー格子の最小ノルムは、どこまで大きくできるでしょうか。
重さ のモジュラー形式の空間の基底は、これまでに出てきた つの格子から作れます。 を 個、 を 個並べた直交和は 次元の偶ユニモジュラー格子で、そのテータ級数は です。 が の倍数のとき、 を満たす積、つまり に つずつ対応する積が、重さ のモジュラー形式の空間の基底になります [Ser73, Ch. VII, §3]。したがって、 次元の偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、どれもこの 個の積の一次結合で書けます。
例として の場合を見てみましょう。このとき積は つあります。表には、 つの積の から までの係数と、それらのある一次結合の係数を並べています。
| 和 |
この一次結合は、 と の係数が になるように選んだものです。積が つなので、課せる条件も つです。定数項が 、 と の係数が 、という つの条件で一次結合はただ一つに決まり、 の係数も に決まります。
そこで、 次元の偶ユニモジュラー格子を一つとってみます。ノルム か の でないベクトルを持てば、最小ノルムは 以下です。どちらも持たなければ、テータ級数は で始まるので、この一次結合に一致し、ノルム のベクトルを 本持ちます。いずれの場合も、最小ノルムは 以下です。
同じ議論はどの次元でも成り立ちます。 とおくと、積は 個あります。定数項が で、 の係数がすべて という条件を課すと、一次結合はただ一つに決まり、残りの係数もすべて決まります。もう少し考えると、最小ノルムは を超えられないことが分かります。そのために必要なのは、こうして決まる一次結合の の係数が常に正であることで、これは Siegel が証明しました [Sie69]。
定理(Mallows–Odlyzko–Sloane [MOS75]) 次元の偶ユニモジュラー格子について
が成り立つ。
等号が成り立つ偶ユニモジュラー格子を、極値偶ユニモジュラー格子(extremal even unimodular lattice)と呼びます。単に極値格子とも呼びます。上界は、次元が の倍数に達するたびに ずつ上がります。 次元と 次元では 、 次元から 次元では 、 次元から 次元では という具合です。 と Leech 格子は極値格子です。
極値格子のテータ級数は、上で決まった一次結合に一致します。そのため、格子そのものが見つかる前から、各ノルムのベクトルの本数が分かっています。 つ目の表に、最小ノルムのベクトルの本数を示します。
ただし、この一次結合の係数は常に正とは限りません。ベクトルの本数は負になりえないので、負の係数が一つでもあれば、その次元に極値格子は存在しません。Mallows、Odlyzko、Sloane は、次元が十分大きいとき負の係数が現れることを示しました。さらに Jenkins と Rouse は、 より大きいすべての次元で負の係数が現れることを示しました。したがって、それらの次元に極値格子は存在しません [JR11]。
一方、 次元以下では、極値格子が存在するかどうかを次元ごとに決めるしかありません。例が知られている次元は歴史の頁にまとめています。
| 次元 | 上界 | 最小ノルムのベクトルの本数 |
|---|---|---|
球充填と球面デザイン
本筋からは少し外れますが、この節では、極値格子が幾何学の問題とどう結びつくかを二つ紹介しておきます。前の節の上界はテータ級数についての主張でしたが、極値格子は幾何学的な理由からも興味を持たれています。
一つ目は球充填です。格子の各点に、半径 の球を置きます。球どうしは重ならず、体積 の基本領域 つあたり球 個の割合になります。したがって、球が空間に占める割合は
です。ユニモジュラー格子では分母が です。そのため、同じ次元の偶ユニモジュラー格子どうしでは、最小ノルムが大きいほど球の詰め方は密になり、極値格子は上界が許す範囲でいちばん密な詰め方を与えます。
個の球に接する球の個数は、最小ノルムのベクトルの本数に等しくなります。これをこの球充填の接吻数(kissing number)と呼びます。極値格子の接吻数は、上の つ目の表の右端の列の数です。図は、球の代わりに円板を使って、同じことを平面で描いたものです。どの円板も 枚の円板に接しているので、この詰め方の接吻数は です。
次元では、接吻数は最大で です。 個目の球も中心の球に接することができるかどうかは 17 世紀に議論になり、できないことを Schütte と van der Waerden が証明しました [SvdW53]。 の接吻数は 、Leech 格子の接吻数は で、これらはそれぞれ 次元と 次元で可能な最大の値です [OS79]。
ただし、極値格子がその次元でいちばん密な球充填だとは限りません。上の比較の対象は同じ次元の偶ユニモジュラー格子に限られ、それ以外の格子や、格子から作られない球充填は含まれていないからです。いちばん密な詰め方を決める問題は、 次元でもすでに難問です。Kepler は 1611 年に、同じ大きさの球の詰め方で面心立方格子の配置(果物店でオレンジを積む並べ方)より密なものはないと予想しました。この配置は空間の を占めます。Hales が 1998 年に証明を発表し、その証明は 2005 年に出版されました [Hal05]。
これに対して 次元と 次元では、極値格子である と が、あらゆる球充填の中でいちばん密です。 次元の場合は Viazovska が [Via17]、 次元の場合は Cohn、Kumar、Miller、Radchenko、Viazovska が [CKMRV17] 証明しました。
二つ目は、同じノルムのベクトルの散らばり方です。極値格子では、ノルムが等しいベクトル全体は、それらがのる球面の上に偏りなく分布しています。これは次のように定式化されます。球面上の有限集合 が球面 -デザインであるとは、次数が 以下のどの多項式 についても、 の上での の平均が球面全体での平均に等しいことをいいます。
Venkov は次のことを示しました。 次元の極値格子では、 を で割った余りが 、、 のとき、 でないどのノルムについても、そのノルムのベクトル全体がそれぞれ球面 -デザイン、-デザイン、-デザインになります [BV01, Cor. 4.1]。
文献
- [Ser73] J.-P. Serre, A Course in Arithmetic, Graduate Texts in Mathematics 7, Springer, 1973. doi
- [Nie73] H.-V. Niemeier, Definite quadratische Formen der Dimension 24 und Diskriminante 1, J. Number Theory 5 (1973) 142–178. doi
- [Kin03] O. D. King, A mass formula for unimodular lattices with no roots, Math. Comp. 72 (2003) 839–863. doi
- [Lee67] J. Leech, Notes on sphere packings, Canad. J. Math. 19 (1967) 251–267. doi
- [Con69] J. H. Conway, A characterisation of Leech's lattice, Invent. Math. 7 (1969) 137–142. doi
- [SPLAG] J. H. Conway, N. J. A. Sloane, Sphere Packings, Lattices and Groups, 3rd ed., Springer 1999. doi
- [Sie69] C. L. Siegel, Berechnung von Zetafunktionen an ganzzahligen Stellen, Nachr. Akad. Wiss. Göttingen Math.-Phys. Kl. II 1969, 87–102.
- [MOS75] C. L. Mallows, A. M. Odlyzko, N. J. A. Sloane, Upper bounds for modular forms, lattices, and codes, J. Algebra 36 (1975) 68–76. doi
- [JR11] P. Jenkins, J. Rouse, Bounds for coefficients of cusp forms and extremal lattices, Bull. London Math. Soc. 43 (2011) 927–938. doi
- [SvdW53] K. Schütte, B. L. van der Waerden, Das Problem der dreizehn Kugeln, Math. Ann. 125 (1953) 325–334. doi
- [OS79] A. M. Odlyzko, N. J. A. Sloane, New bounds on the number of unit spheres that can touch a unit sphere in n dimensions, J. Combin. Theory Ser. A 26 (1979) 210–214. doi
- [Hal05] T. C. Hales, A proof of the Kepler conjecture, Ann. of Math. 162 (2005) 1065–1185. doi
- [Via17] M. Viazovska, The sphere packing problem in dimension 8, Ann. of Math. 185 (2017) 991–1015. arXiv:1603.04246
- [CKMRV17] H. Cohn, A. Kumar, S. D. Miller, D. Radchenko, M. Viazovska, The sphere packing problem in dimension 24, Ann. of Math. 185 (2017) 1017–1033. arXiv:1603.06518
- [BV01] C. Bachoc, B. Venkov, Modular forms, lattices and spherical designs, in: Réseaux euclidiens, designs sphériques et formes modulaires, Monogr. Enseign. Math. 37 (2001).