極値偶ユニモジュラー格子 English GitHub

極値偶ユニモジュラー格子とは

格子と Gram 行列

Rn\mathbb{R}^n の一次独立な nn 本のベクトル b1,…,bnb_1,\dots,b_n を整数係数で足し合わせて得られる点全体を、格子(lattice)と呼びます。

Λ={ c1b1+⋯+cnbn:c1,…,cn∈Z }.\Lambda=\{\,c_1b_1+\dots+c_nb_n : c_1,\dots,c_n\in\mathbb{Z}\,\}.

いちばん簡単な例は、座標がすべて整数の点からなる Zn\mathbb{Z}^n です。通常の内積を ⟨x,y⟩\langle x,y\rangle と書き、長さの 22 乗 ⟨x,x⟩\langle x,x\rangle を xx のノルムと呼びます。

格子は、回転と鏡映の違いを除けば、基底ベクトルどうしの内積で決まります。これを並べた行列

G=(⟨bi,bj⟩)1≤i,j≤nG=\bigl(\langle b_i,b_j\rangle\bigr)_{1\le i,j\le n}

を Gram 行列と呼びます。Λ\Lambda のベクトルを x=c1b1+⋯+cnbnx=c_1b_1+\dots+c_nb_n と書くと、そのノルムは c=(c1,…,cn)c=(c_1,\dots,c_n) として cGcTcGc^{\mathsf T} で計算できます。

格子の基底は一通りではありません。基底を取り替えると GG は UGUTUGU^{\mathsf T}(UU は行列式が ±1\pm1 の整数行列)に変わるので、行列式 det⁡G\det G は基底の取り方によりません。これを格子の行列式と呼び、det⁡Λ\det\Lambda と書きます。その平方根は、基底ベクトルが張る平行体 {t1b1+⋯+tnbn:0≤ti<1}\{t_1b_1+\dots+t_nb_n : 0\le t_i<1\} の体積に等しくなります。この平行体を基本領域と呼びます。基本領域を格子のすべてのベクトルで平行移動すると、Rn\mathbb{R}^n が重なりなく覆われます。

このウェブサイトで扱う格子はすべて、成分が整数の Gram 行列で与えます(ここで扱う格子は内積がすべて整数になるものだからです。詳しくは次の節で述べます)。図に示したのは、R8\mathbb{R}^8 にある E8E_8 という格子の Gram 行列です。E8E_8 は、次の節で定義する偶ユニモジュラー格子のうち次元が最も小さいもので、このウェブサイトの全体を通して何度も登場します。

GE8=(2−1⋅⋅⋅⋅⋅⋅−12−1⋅⋅⋅⋅⋅⋅−12−1⋅⋅⋅⋅⋅⋅−12−1⋅⋅⋅⋅⋅⋅−12−1⋅−1⋅⋅⋅⋅−12−1⋅⋅⋅⋅⋅⋅−12⋅⋅⋅⋅⋅−1⋅⋅2)G_{E_8}=\def\arraystretch{1.4}\begin{pmatrix}2&-1&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot\\-1&2&-1&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot\\\cdot&-1&2&-1&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot\\\cdot&\cdot&-1&2&-1&\cdot&\cdot&\cdot\\\cdot&\cdot&\cdot&-1&2&-1&\cdot&-1\\\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&-1&2&-1&\cdot\\\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&-1&2&\cdot\\\cdot&\cdot&\cdot&\cdot&-1&\cdot&\cdot&2\end{pmatrix}
E₈ の Gram 行列(8×8)

正の成分は赤、負の成分は青、00 は灰色で示しています。対角成分はすべて 22 で、det⁡G=1\det G=1 です。

偶ユニモジュラー格子

ベクトルどうしの内積 ⟨x,y⟩\langle x,y\rangle がすべて整数である格子、つまり Gram 行列の成分がすべて整数である格子を、整格子(integral lattice)と呼びます。整格子の中でも、次の性質を持つものには特に名前が付いています。

  • 偶格子(even lattice): すべてのノルム ⟨x,x⟩\langle x,x\rangle が偶数である整格子です。これは、GG の対角成分がすべて偶数であることと同じです。
  • ユニモジュラー格子(unimodular lattice): det⁡G=1\det G=1 である整格子です。これは、格子がその双対格子 Λ#={ y∈Rn:すべての x∈Λ について ⟨x,y⟩∈Z }\Lambda^{\#}=\{\,y\in\mathbb{R}^n : \text{すべての}\ x\in\Lambda\ \text{について}\ \langle x,y\rangle\in\mathbb{Z}\,\} と一致することと同じです。

偶ユニモジュラー格子は、次元 nn が 88 の倍数のときにしか存在しません [Ser73, Ch. V](理由はすぐ次の節で説明します)。Zn\mathbb{Z}^n はユニモジュラーですが、基底ベクトルのノルムが 11 なので偶格子ではありません。一方、上の図の E8E_8 の Gram 行列は、対角成分がすべて 22 で行列式が 11 なので、E8E_8 は偶ユニモジュラー格子です。

回転と鏡映で互いに移り合う格子を同一視すると、偶ユニモジュラー格子はどの次元でも有限個しかありません。88 次元にあるのは E8E_8 だけです。1616 次元には、E8⊥E8E_8\perp E_8 と、D16+D_{16}^{+} と呼ばれる格子の 22 個があります。ここで ⊥\perp は直交和を表し、22 つの E8E_8 が R16\mathbb{R}^{16} の互いに直交する 88 次元の部分空間に置かれています。

2424 次元には 2424 個あり、これらを分類した数学者の名をとって Niemeier 格子と呼ばれています [Nie73]⁠。3232 次元には、ノルム 22 のベクトルを持たないものに限っても 10001000 万個以上あることが分かっていますが [Kin03, Cor. 5]⁠、正確な個数はまだ知られていません。このような下界をどう得るのかは、質量公式の頁で説明します。

2424 個の Niemeier 格子のうち、ノルム 22 のベクトルを持たないものは 11 つしかありません。これが Leech 格子 Λ24\Lambda_{24} で、1967 年に Leech が論文で発表しました [Lee67]⁠。また、ノルム 22 のベクトルを持たない 2424 次元の偶ユニモジュラー格子が Leech 格子に限られることを、Conway が証明しています [Con69]⁠。Λ24\Lambda_{24} の 00 でないベクトルのノルムはすべて 44 以上で、ノルム 44 のベクトルは 196 560196\,560 本あります。図は Λ24\Lambda_{24} の Gram 行列の一つです。

Leech 格子 Λ₂₄ の Gram 行列(24×24)

拡張 Golay 符号を用いた構成による Gram 行列です [SPLAG, Ch. 4]。対角成分はすべて 44 で、det⁡G=1\det G=1 です。

テータ級数

格子 Λ⊂Rn\Lambda\subset\mathbb{R}^n に対して、関数

θΛ(τ)=∑x∈Λeπiτ⟨x,x⟩,τ∈H={τ∈C:Im⁡τ>0}\theta_\Lambda(\tau)=\sum_{x\in\Lambda}e^{\pi i\tau\langle x,x\rangle},\qquad \tau\in\mathbb{H}=\{\tau\in\mathbb{C} : \operatorname{Im}\tau>0\}

を Λ\Lambda のテータ級数と呼びます。ノルムの等しいベクトルをまとめると、ノルム kk のベクトルの本数を NkN_k として θΛ(τ)=∑k≥0Nk eπiτk\theta_\Lambda(\tau)=\sum_{k\ge0}N_k\,e^{\pi i\tau k} と書けます。偶格子ではノルムが偶数のものしか現れないので、q=e2πiτq=e^{2\pi i\tau} とおくと、テータ級数はベクトルの本数を係数とする qq のべき級数になります。

θΛ(τ)=1+N2 q+N4 q2+N6 q3+⋯ .\theta_\Lambda(\tau)=1+N_2\,q+N_4\,q^2+N_6\,q^3+\cdots .

たとえば、E8E_8 と Leech 格子のテータ級数は次のように始まります。

θE8(τ)=1+240 q+2160 q2+6720 q3+⋯ ,θΛ24(τ)=1+0⋅q+196 560 q2+16 773 120 q3+⋯ .\begin{aligned} \theta_{E_8}(\tau)&=1+240\,q+2160\,q^2+6720\,q^3+\cdots,\\ \theta_{\Lambda_{24}}(\tau)&=1+0\cdot q+196\,560\,q^2+16\,773\,120\,q^3+\cdots . \end{aligned}

格子 LL と MM の直交和 L⊥ML\perp M のテータ級数は、LL と MM のテータ級数の積になります。L⊥ML\perp M のベクトルは x∈Lx\in L と y∈My\in M の組 (x,y)(x,y) で、そのノルムは ⟨x,x⟩+⟨y,y⟩\langle x,x\rangle+\langle y,y\rangle だからです。つまり、次のようになります。

θL⊥M(τ)=∑x∈L∑y∈Meπiτ(⟨x,x⟩+⟨y,y⟩)=θL(τ) θM(τ).\theta_{L\perp M}(\tau)=\sum_{x\in L}\sum_{y\in M}e^{\pi i\tau(\langle x,x\rangle+\langle y,y\rangle)}=\theta_L(\tau)\,\theta_M(\tau).

偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、22 つの変換公式に従います。まず、⟨x,x⟩\langle x,x\rangle が偶数なので、どの xx についても eπi⟨x,x⟩=1e^{\pi i\langle x,x\rangle}=1 です。したがって

θΛ(τ+1)=∑x∈Λeπiτ⟨x,x⟩ eπi⟨x,x⟩=θΛ(τ)\theta_\Lambda(\tau+1)=\sum_{x\in\Lambda}e^{\pi i\tau\langle x,x\rangle}\,e^{\pi i\langle x,x\rangle}=\theta_\Lambda(\tau)

が成り立ちます。次に、Poisson の和公式から、どの格子についても

θΛ ⁣(−1τ)=(τi)n/21det⁡Λ  θΛ#(τ)\theta_\Lambda\!\left(-\frac1\tau\right)=\left(\frac{\tau}{i}\right)^{n/2}\frac{1}{\sqrt{\det\Lambda}}\;\theta_{\Lambda^{\#}}(\tau)

が得られます [Ser73, Ch. VII, §6]⁠。右辺には双対格子が現れます。ユニモジュラー格子では Λ#=Λ\Lambda^{\#}=\Lambda⁠、det⁡Λ=1\det\Lambda=1 なので、両辺に同じ関数が現れます。

θΛ ⁣(−1τ)=(τi)n/2θΛ(τ).\theta_\Lambda\!\left(-\frac1\tau\right)=\left(\frac{\tau}{i}\right)^{n/2}\theta_\Lambda(\tau).

ユニモジュラー性を考えるのはこのためです。ユニモジュラー格子のテータ級数は、具体的な因子を除いて自分自身に移ります。

実は、この 22 つの変換公式だけで、nn は 88 の倍数でなければならないことが分かります。22 つを組み合わせると、写像 U(τ)=−1/(τ+1)U(\tau)=-1/(\tau+1) はテータ級数に次のように作用します。

θΛ(U(τ))=A(τ) θΛ(τ),A(τ)=(τ+1i)n/2.\theta_\Lambda\bigl(U(\tau)\bigr)=A(\tau)\,\theta_\Lambda(\tau),\qquad A(\tau)=\left(\frac{\tau+1}{i}\right)^{n/2}.

UU を 33 回続けると、どの点も元に戻ります。つまり U(U(U(τ)))=τU(U(U(\tau)))=\tau です。したがって

θΛ(τ)=A(U(U(τ))) A(U(τ)) A(τ)  θΛ(τ)\theta_\Lambda(\tau)=A\bigl(U(U(\tau))\bigr)\,A\bigl(U(\tau)\bigr)\,A(\tau)\;\theta_\Lambda(\tau)

となります。θΛ\theta_\Lambda は恒等的に 00 ではなく、因子は τ\tau について連続なので、33 つの因子の積はすべての τ\tau で 11 です。ここで ρ=e2πi/3\rho=e^{2\pi i/3} とおくと、U(ρ)=ρU(\rho)=\rho であり、(ρ+1)/i=e−πi/6(\rho+1)/i=e^{-\pi i/6} なので、33 つの因子はどれも A(ρ)=e−πin/12A(\rho)=e^{-\pi i n/12} に等しくなります。よって e−πin/4=1e^{-\pi i n/4}=1⁠、つまり nn は 88 の倍数です。

nn が 88 の倍数なら、因子 (τ/i)n/2(\tau/i)^{n/2} は単に τn/2\tau^{n/2} になります。上半平面 H\mathbb{H} 上の正則関数で、τ↦τ+1\tau\mapsto\tau+1 で変わらず、τ↦−1/τ\tau\mapsto-1/\tau で τk\tau^{k} 倍になり、Im⁡τ→∞\operatorname{Im}\tau\to\infty で有界なものを、重さ kk のモジュラー形式と呼びます。したがって、nn 次元の偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、重さ n/2n/2 のモジュラー形式です [Ser73, Ch. VII, §6]⁠。これが重要なのは、重さを固定すると、その重さのモジュラー形式全体が次元の小さいベクトル空間をなすからです。次の節で見るように、そのために本数 N2,N4,…N_2,N_4,\dots の自由度はほとんど残りません。

最小ノルムの上界

格子 Λ\Lambda の 00 でないベクトルのノルムのうち最も小さい値を、Λ\Lambda の最小ノルムと呼び、min⁡Λ\min\Lambda と書きます。偶格子の最小ノルムは偶数です。では、偶ユニモジュラー格子の最小ノルムは、どこまで大きくできるでしょうか。

重さ n/2n/2 のモジュラー形式の空間の基底は、これまでに出てきた 22 つの格子から作れます。E8E_8 を aa 個、Λ24\Lambda_{24} を bb 個並べた直交和は 8a+24b8a+24b 次元の偶ユニモジュラー格子で、そのテータ級数は θE8 a θΛ24 b\theta_{E_8}^{\,a}\,\theta_{\Lambda_{24}}^{\,b} です。nn が 88 の倍数のとき、8a+24b=n8a+24b=n を満たす積、つまり b=0,1,…,⌊n/24⌋b=0,1,\dots,\lfloor n/24\rfloor に 11 つずつ対応する積が、重さ n/2n/2 のモジュラー形式の空間の基底になります [Ser73, Ch. VII, §3]⁠。したがって、nn 次元の偶ユニモジュラー格子のテータ級数は、どれもこの ⌊n/24⌋+1\lfloor n/24\rfloor+1 個の積の一次結合で書けます。

例として n=48n=48 の場合を見てみましょう。このとき積は 33 つあります。表には、33 つの積の q0q^0 から q4q^4 までの係数と、それらのある一次結合の係数を並べています。

λ\lambda11q1q^{1}q2q^{2}q3q^{3}q4q^{4}
θE86\theta_{E_8}^{6}−91120-\dfrac{91}{120}1114401440876 960876\,960292 072 320292\,072\,32057 349 833 12057\,349\,833\,120⋯\cdots
θE83θΛ24\theta_{E_8}^{3}\theta_{\Lambda_{24}}9160\dfrac{91}{60}11720720375 840375\,840175 250 880175\,250\,88048 110 931 36048\,110\,931\,360⋯\cdots
θΛ242\theta_{\Lambda_{24}}^{2}29120\dfrac{29}{120}1100393 120393\,12033 546 24033\,546\,24039 431 901 60039\,431\,901\,600⋯\cdots
和11000052 416 00052\,416\,00039 007 332 00039\,007\,332\,000⋯\cdots
4848 次元の場合です。各行には、テータ級数の積を qq で展開したときの最初のいくつかの係数を並べています。最後の行は、各行に第 22 列の数 λ\lambda を掛けて足したものです。網掛けの係数が 00 になるように λ\lambda を選んでいます。

この一次結合は、qq と q2q^2 の係数が 00 になるように選んだものです。積が 33 つなので、課せる条件も 33 つです。定数項が 11⁠、qq と q2q^2 の係数が 00⁠、という 33 つの条件で一次結合はただ一つに決まり、q3q^3 の係数も 52 416 00052\,416\,000 に決まります。

そこで、4848 次元の偶ユニモジュラー格子を一つとってみます。ノルム 22 か 44 の 00 でないベクトルを持てば、最小ノルムは 44 以下です。どちらも持たなければ、テータ級数は 1+0⋅q+0⋅q21+0\cdot q+0\cdot q^2 で始まるので、この一次結合に一致し、ノルム 66 のベクトルを 52 416 00052\,416\,000 本持ちます。いずれの場合も、最小ノルムは 66 以下です。

同じ議論はどの次元でも成り立ちます。m=⌊n/24⌋m=\lfloor n/24\rfloor とおくと、積は m+1m+1 個あります。定数項が 11 で、q,…,qmq,\dots,q^m の係数がすべて 00 という条件を課すと、一次結合はただ一つに決まり、残りの係数もすべて決まります。もう少し考えると、最小ノルムは 2m+22m+2 を超えられないことが分かります。そのために必要なのは、こうして決まる一次結合の qm+1q^{m+1} の係数が常に正であることで、これは Siegel が証明しました [Sie69]⁠。

定理(Mallows–Odlyzko–Sloane [MOS75]⁠) nn 次元の偶ユニモジュラー格子について

min⁡Λ≤2⌊n24⌋+2\min\Lambda\le 2\left\lfloor\frac{n}{24}\right\rfloor+2

が成り立つ。

等号が成り立つ偶ユニモジュラー格子を、極値偶ユニモジュラー格子(extremal even unimodular lattice)と呼びます。単に極値格子とも呼びます。上界は、次元が 2424 の倍数に達するたびに 22 ずつ上がります。88 次元と 1616 次元では 22⁠、2424 次元から 4040 次元では 44⁠、4848 次元から 6464 次元では 66 という具合です。E8E_8 と Leech 格子は極値格子です。

極値格子のテータ級数は、上で決まった一次結合に一致します。そのため、格子そのものが見つかる前から、各ノルムのベクトルの本数が分かっています。22 つ目の表に、最小ノルムのベクトルの本数を示します。

ただし、この一次結合の係数は常に正とは限りません。ベクトルの本数は負になりえないので、負の係数が一つでもあれば、その次元に極値格子は存在しません。Mallows、Odlyzko、Sloane は、次元が十分大きいとき負の係数が現れることを示しました。さらに Jenkins と Rouse は、163 264163\,264 より大きいすべての次元で負の係数が現れることを示しました。したがって、それらの次元に極値格子は存在しません [JR11]⁠。

一方、163 264163\,264 次元以下では、極値格子が存在するかどうかを次元ごとに決めるしかありません。例が知られている次元は歴史の頁にまとめています。

次元 nn上界 2⌊n/24⌋+22\lfloor n/24\rfloor+2最小ノルムのベクトルの本数
8822240240
161622480480
242444196 560196\,560
323244146 880146\,880
40404439 60039\,600
48486652 416 00052\,416\,000
56566615 590 40015\,590\,400
6464662 611 2002\,611\,200
7272886 218 175 6006\,218\,175\,600
8080881 250 172 0001\,250\,172\,000
888888168 498 000168\,498\,000
96961010565 866 362 880565\,866\,362\,880
104104101091 508 901 12091\,508\,901\,120
112112101010 888 335 36010\,888\,335\,360
120120121245 792 819 072 00045\,792\,819\,072\,000
極値格子の最小ノルムのベクトルの本数です。上で決まった一次結合の係数から読み取れます。この表は、そのような格子が存在するかどうかについては何も述べていません。

球充填と球面デザイン

本筋からは少し外れますが、この節では、極値格子が幾何学の問題とどう結びつくかを二つ紹介しておきます。前の節の上界はテータ級数についての主張でしたが、極値格子は幾何学的な理由からも興味を持たれています。

一つ目は球充填です。格子の各点に、半径 12min⁡Λ\tfrac12\sqrt{\min\Lambda} の球を置きます。球どうしは重ならず、体積 det⁡Λ\sqrt{\det\Lambda} の基本領域 11 つあたり球 11 個の割合になります。したがって、球が空間に占める割合は

半径 12min⁡Λ の球の体積det⁡Λ\frac{\text{半径}\ \tfrac12\sqrt{\min\Lambda}\ \text{の球の体積}}{\sqrt{\det\Lambda}}

です。ユニモジュラー格子では分母が 11 です。そのため、同じ次元の偶ユニモジュラー格子どうしでは、最小ノルムが大きいほど球の詰め方は密になり、極値格子は上界が許す範囲でいちばん密な詰め方を与えます。

11 個の球に接する球の個数は、最小ノルムのベクトルの本数に等しくなります。これをこの球充填の接吻数(kissing number)と呼びます。極値格子の接吻数は、上の 22 つ目の表の右端の列の数です。図は、球の代わりに円板を使って、同じことを平面で描いたものです。どの円板も 66 枚の円板に接しているので、この詰め方の接吻数は 66 です。

b1 b2
球の代わりに円板を使って、同じことを平面で描いた図です。平面の六角格子の各点に、半径 12min⁡Λ\tfrac12\sqrt{\min\Lambda} の円板を置いています。濃い色の円板は 66 枚の円板に接しているので、接吻数は 66 です。破線の平行四辺形は基底 b1,b2b_1,b_2 が張る基本領域で、その面積は円板 11 枚あたりに割り当てられる平面の面積に等しく、円板は平面の π/12≈90.7%\pi/\sqrt{12}\approx 90.7\% を占めます。

33 次元では、接吻数は最大で 1212 です。1313 個目の球も中心の球に接することができるかどうかは 17 世紀に議論になり、できないことを Schütte と van der Waerden が証明しました [SvdW53]⁠。E8E_8 の接吻数は 240240⁠、Leech 格子の接吻数は 196 560196\,560 で、これらはそれぞれ 88 次元と 2424 次元で可能な最大の値です [OS79]⁠。

ただし、極値格子がその次元でいちばん密な球充填だとは限りません。上の比較の対象は同じ次元の偶ユニモジュラー格子に限られ、それ以外の格子や、格子から作られない球充填は含まれていないからです。いちばん密な詰め方を決める問題は、33 次元でもすでに難問です。Kepler は 1611 年に、同じ大きさの球の詰め方で面心立方格子の配置(果物店でオレンジを積む並べ方)より密なものはないと予想しました。この配置は空間の π/18≈74.05%\pi/\sqrt{18}\approx 74.05\% を占めます。Hales が 1998 年に証明を発表し、その証明は 2005 年に出版されました [Hal05]⁠。

これに対して 88 次元と 2424 次元では、極値格子である E8E_8 と Λ24\Lambda_{24} が、あらゆる球充填の中でいちばん密です。88 次元の場合は Viazovska が [Via17]⁠、2424 次元の場合は Cohn、Kumar、Miller、Radchenko、Viazovska が [CKMRV17] 証明しました。

二つ目は、同じノルムのベクトルの散らばり方です。極値格子では、ノルムが等しいベクトル全体は、それらがのる球面の上に偏りなく分布しています。これは次のように定式化されます。球面上の有限集合 XX が球面 tt-デザインであるとは、次数が tt 以下のどの多項式 ff についても、XX の上での ff の平均が球面全体での平均に等しいことをいいます。

Venkov は次のことを示しました。nn 次元の極値格子では、nn を 2424 で割った余りが 00⁠、88⁠、1616 のとき、00 でないどのノルムについても、そのノルムのベクトル全体がそれぞれ球面 1111-デザイン、77-デザイン、33-デザインになります [BV01, Cor. 4.1]⁠。

文献

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